Mr.Children「HANABI」歌詞考察:「もう一回」という反復に込められた希望と絶望の真意
Mr.Children「HANABI」と印象的な「もう一回」という言葉
Mr.Childrenの楽曲「HANABI」は、フジテレビ系ドラマ『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』の主題歌として広く知られ、多くの人々に愛されている一曲です。この楽曲が持つ魅力の一つに、困難な状況の中でもがきながらも光を見出そうとする、切実な言葉の数々が挙げられます。特に印象的なのが、サビなどで繰り返される「もう一回 もう一回」というフレーズです。
このシンプルな反復表現は、聴く人の心に深く響き、様々な感情や経験と結びついて多様な解釈を生んでいます。単なる繰り返しの要求に留まらない、この「もう一回」という言葉に込められた多層的な意味合いと、それが楽曲全体の中でどのように機能しているのかを考察します。
繰り返される「もう一回」の持つ多義性
「もう一回」という言葉は、文字通り何かを再度行うことを意味します。しかし、歌詞の中で反復されるとき、その単純な意味を超えた感情や状況が込められることが少なくありません。「HANABI」におけるこのフレーズは、特に複数の解釈を可能にしている点が特徴的です。
希望や再起への願い
最もポジティブな解釈の一つとして、失敗や挫折からの再起、再び挑戦しようとする強い願いが挙げられます。人生において、思い通りにいかないことや、やり直したいと願う瞬間に直面することは誰にでもあります。そのような時、「もう一回」という言葉は、諦めずに立ち上がろうとする希望の光となり得ます。特に、楽曲のクライマックスに向けてこのフレーズが繰り返される際には、困難を乗り越え、前へ進もうとする力強い意志が感じられます。
絶望や執着としての側面
一方で、「もう一回」という言葉は、失われた過去や叶わぬ願いへの執着、あるいは現状を変えられないことへの絶望を滲ませる場合もあります。取り返しのつかない失敗、二度と戻らない時間、失ってしまった大切なものに対して「もう一回」と願うことは、希望と同時に深い悲しみや諦めを伴います。歌詞の他の部分、例えば「大切な人達は もう二度と戻らないよ」といった諦念を含むフレーズと組み合わせることで、この「もう一回」が単なる前向きな繰り返しではない、苦い響きを帯びている可能性も読み取れます。
確認や問いかけとしての反復
さらに、「もう一回」という繰り返しは、自分自身への問いかけや、現状に対する確認の意味合いも持ち得ます。人生という不確かな旅路の中で、「これで良いのだろうか」「本当にこれで終わりなのか」と自問自答する姿が、この反復によって表現されているとも考えられます。それは、まるで立ち止まり、自分自身に、あるいは見えない未来に対して「もう一度チャンスはないか」「もう一度確かめさせてくれ」と語りかけているかのようです。
歌詞全体における「もう一回」の機能
「HANABI」の歌詞は、人生の厳しさ、痛み、そしてそこから生まれる希望を描いています。
街の灯りが とても綺麗だね まるでダイヤモンドみたいだね なんて君は無邪気に笑う
くだらない話だってさえぎらないで 聞いてくれる君が本当は大事なんだ
(中略)
もう一回 もう一回 今度はうまく愛せるように もう一回 もう一回 決してさよならは言わない
(Mr.Children「HANABI」より引用)
この引用部分からも分かるように、歌詞は日常の美しい風景と、内面の葛藤や他者への依存、そして失うことへの恐れが入り混じった心情を描いています。「もう一回」というフレーズは、このような内面的な揺れ動きの中で現れます。特にサビでの「今度はうまく愛せるように」「決してさよならは言わない」という言葉に続く「もう一回」は、過去の失敗を繰り返したくないという切実な願いと、未来への希望が強く込められていると解釈できます。
AメロやBメロで描かれる現実の厳しさや諦念の雰囲気と対比することで、サビの「もう一回」はより一層、その切実さと多義性を増しています。それは、単なる楽観的な繰り返しではなく、困難を知った上でなお願う、深く複雑な願いなのです。
作者の視点と普遍性
Mr.Childrenの桜井和寿氏は、自身の歌詞でしばしば人間の内面の弱さや葛藤、生と死といった根源的なテーマを描いてきました。「HANABI」における「もう一回」という表現もまた、そうした作者の一貫した視点を反映していると言えるかもしれません。完璧ではない人間が、それでもより良く生きようと願い、過去の過ちを繰り返さないようにと奮闘する姿が、この言葉に凝縮されているのではないでしょうか。
また、「もう一回」という言葉の選び方には、特定の状況に限定されない普遍性があります。恋愛、仕事、人間関係、あるいは人生そのものといった、様々な場面における「もう一度やり直したい」「もう一度チャンスが欲しい」という普遍的な人間の感情を喚起します。だからこそ、このフレーズは多くのリスナーにとって、自身の経験と重ね合わせて深く共感できる言葉となっているのです。
まとめ
Mr.Childrenの「HANABI」に登場する「もう一回 もう一回」という反復フレーズは、そのシンプルさの中に、希望、絶望、執着、そして未来への問いかけといった多様な意味を含んでいます。楽曲全体で描かれる現実の厳しさと対比されることで、この言葉は単なる繰り返しの願望ではなく、困難を知った上でなお光を見出そうとする人間の切実な願いとして響きます。
この多層的な解釈の可能性こそが、「HANABI」の「もう一回」という言葉が、多くのリスナーの心に残り続け、それぞれの人生における「もう一度」への思いと深く共鳴する理由と言えるでしょう。それは、完璧ではないからこそ、繰り返し願い、立ち向かうことの尊さを静かに示唆しているのかもしれません。