サカナクション「新宝島」歌詞考察：手塚治虫「新寶島」との関連と、繰り返される言葉の意図
サカナクション「新宝島」歌詞考察：手塚治虫「新寶島」との関連と、繰り返される言葉の意図
サカナクションの楽曲「新宝島」は、映画『バクマン。』の主題歌として広く知られ、その独特のリズムと耳に残るフレーズによって多くのリスナーに強烈な印象を与えました。特に、タイトルに冠された「新宝島」という言葉、そして歌詞中で繰り返される「多分、まだ」というフレーズは、この楽曲が単なるポップソングに留まらない、深い探求の精神を内包していることを示唆しています。この記事では、これらの言葉に焦点を当て、「新宝島」の歌詞に込められた真意を考察します。
タイトル「新宝島」が示唆するもの
まず、楽曲のタイトルである「新宝島」について考えます。このタイトルは、日本の漫画史において画期的な作品とされる手塚治虫（および酒井七馬）による同名の漫画『新寶島』への明確なオマージュであるとされています。手塚版『新寶島』は、映画的なコマ割りや大胆なアングルといった当時としては斬新な表現技法を多用し、その後の日本の漫画表現に多大な影響を与えました。
サカナクションが自身の楽曲にこのタイトルを冠したことは、単に有名な作品名を用いたという以上に、手塚治虫が『新寶島』で試みたような、既存の枠にとらわれない新しい表現への挑戦、あるいは未知なる表現の地平への探求というテーマを楽曲に込めている可能性を示唆します。音楽における「新宝島」とは、まだ見ぬ音、まだ発見されていない表現方法を指しているのかもしれません。楽曲の持つ実験的で中毒性のあるサウンドは、まさにその探求のプロセスそのものを表現しているかのようです。
繰り返される「多分、まだ」に込められた意図
この楽曲の歌詞において、最も印象的で、かつ考察の鍵となるのが、繰り返される「多分、まだ」というフレーズです。
探しものは何ですか まだ見つかりませんか
大丈夫だよ 見つかりっこないさ
サカナクション「新宝島」より
このような問いかけから始まり、楽曲全体を通してこの「多分、まだ」という言葉が何度も繰り返されます。この反復は、単に耳に残る効果を生むだけでなく、歌詞に深みを与えています。
「多分」という言葉は、確信のなさ、不確かさを示します。「まだ」という言葉は、完了していない状態、継続、あるいは今後の可能性を示唆します。この二つを組み合わせることで、探求の道のりが決して直線的で確実なものではなく、常に試行錯誤の途上であり、目標達成が約束されているわけではないという、揺れ動く心情や不確実な状態が表現されていると解釈できます。
これは、何か新しいものを創造しようとする際の困難さ、理想と現実の間で感じる葛藤、あるいは普遍的な「探しもの」が見つからないという、現代社会における一種の不確実性や未完了感を象徴しているのかもしれません。確固たる答えや到達点が見えない中で、それでもなお探求を続ける姿勢。それが「多分、まだ」という言葉に凝縮されているのではないでしょうか。
また、このフレーズの反復は、まるで呪文のようにも響き、探求のプロセスそのものが反復であり、終わりのないループであるかのような感覚を生み出します。それは、芸術家が常に自身の表現を問い直し、新しい地平を目指す飽くなき探求の姿勢をも表しているのかもしれません。
結論
サカナクションの「新宝島」は、そのタイトルが手塚治虫の革新的な漫画『新寶島』へのオマージュであることから、新しい表現や未知なるものへの探求というテーマを内包していると考えられます。そして、楽曲全体を通して繰り返される「多分、まだ」というフレーズは、その探求の道のりが不確かで、終わりのないものであることを示唆しています。
この楽曲は、単なる冒険譚ではなく、新しい価値観や表現を求め続けることの難しさ、それでもなお歩みを止めないという強い意志を、不確実性を含む言葉の反復によって表現していると言えるでしょう。「探しものは何ですか」という問いかけに対する「多分、まだ」という応答は、答えは簡単には見つからない、しかし探求は続いているのだ、というこの楽曲の核となるメッセージを力強く伝えています。この楽曲を通じて、リスナーは、自身の「探しもの」や、不確かながらも進み続けることの意義について、深く思いを馳せることができるのではないでしょうか。