あの歌詞の真意は?

ずっと真夜中でいいのに。「秒針を噛む」歌詞考察:「秒針を噛む」フレーズに隠された焦燥と時間の歪み

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「あの歌詞の真意は?」へようこそ。このブログでは、印象的な歌詞や議論を呼んだ歌詞に込められた作者の意図や背景を深く考察してまいります。

今回は、インターネットシーンを中心に絶大な人気を誇る音楽ユニット、ずっと真夜中でいいのに。(以下、ずとまよ)のデビュー曲「秒針を噛む」を取り上げます。特に、そのタイトルにもなり、強烈なインパクトを与えるフレーズ「秒針を噛む」を中心に、この楽曲の歌詞世界を深く掘り下げてまいります。

「秒針を噛む」という衝撃的なフレーズ

2018年に公開された「秒針を噛む」は、ずとまよの存在を一躍世に知らしめた楽曲です。その最大の特徴の一つが、タイトルの通り歌詞の中に繰り返し登場する「秒針を噛む」というフレーズでしょう。

秒針を噛む 秒針を噛む

このフレーズは、物理的には不可能な行為を描写しており、聴き手に強烈な違和感と同時に、何らかの切迫した感情や状況を示唆しているように感じさせます。なぜ「秒針を噛む」なのでしょうか。この言葉にはどのような意味が込められているのでしょうか。

言葉の綾としての「秒針を噛む」

まず、「秒針を噛む」という表現を修辞技法として捉えてみましょう。これは文字通りの意味ではなく、比喩として機能しています。

考えられる解釈の一つは、時間に対するどうしようもない焦燥感や苛立ちの表現です。秒針は時間を刻む象徴であり、それを「噛む」という行為は、その流れを止めたい、あるいは逆らいたいという無意識的な抵抗、あるいは時間そのものに対する攻撃性の表れとも取れます。時間が速く進みすぎる、あるいは遅く感じられる状況下での、自身の無力感やコントロールできないことへの不満を、身体的な、しかし不可能な行為として表現しているのではないでしょうか。

また、焦りや緊張によって無意識に唇や舌を噛んでしまうことがあるように、「秒針を噛む」というフレーズは、極度の精神的な負荷がかかっている状態を表している可能性も考えられます。時間のプレッシャーに押し潰されそうになりながらも、どうすることもできない、もどかしい感情を象徴的に表しているのかもしれません。

楽曲全体が描く不安定な感情と時間感覚

「秒針を噛む」というフレーズだけでなく、楽曲全体を通して、時間や現実に対する独特な感覚、不安定な感情が描かれています。

例えば、

正夢にしたくて急いだ 朝焼けに間に合った この先の事話そうとしたら なにか遮るように 君が零した

ここでは、「正夢」「急いだ」「朝焼けに間に合った」といった、未来への期待や希望を思わせる言葉が並びます。しかし、その後に続く「なにか遮るように 君が零した」というフレーズによって、未来への対話が阻害され、状況が思うように進まない様子が描かれています。ここにも、理想と現実のズレ、あるいは時間的なリミットへの焦りが滲んでいるように見えます。

また、

馬鹿なフリして加減を知らない 痛いよ わかるように隠してるのに

といった歌詞からは、自己否定や、本心を隠して振る舞うことによる精神的な痛みが読み取れます。「加減を知らない」という表現は、感情や行動の制御がきかない状態、あるいは相手への不器用なアプローチを示唆し、「わかるように隠してるのに」という言葉は、本心を悟られたくないという願いと、どこか気づいてほしいという相反する感情の揺れ動きを表しているかのようです。これらの不安定な心の動きが、「秒針を噛む」という焦燥感と結びついていると考えることができるでしょう。

楽曲のテンポや目まぐるしく変化するサウンドもまた、歌詞で描かれる時間の歪みや焦燥感を増幅させています。軽快ながらどこか不安定なリズム、複雑に絡み合う音像は、感情がめまぐるしく変化し、時間感覚が曖昧になるような感覚を聴き手に与えます。歌詞とサウンドが高い次元で結びつき、独特の世界観を構築しているのです。

時代背景と多義的な解釈の可能性

ずとまよが登場した時期は、インターネット発のアーティストやボカロP出身のアーティストが注目を集め始めていた頃です。匿名性の高い活動スタイルも相まって、リスナーは歌詞の解釈を自由に膨らませることができました。

「秒針を噛む」というフレーズや楽曲全体が描く世界は、特定の物語に限定されず、聴く人それぞれの経験や感情に寄り添う形で解釈される余地を持っています。恋愛におけるすれ違いや焦り、夢を追いかける上での葛藤や時間との戦い、あるいは現代社会における人間関係の難しさや生きづらさなど、様々な文脈でこの歌詞を理解することが可能です。

「秒針を噛む」という非日常的な比喩は、日常の中で感じる普遍的な焦燥感や不安を、非常に鮮烈なイメージとして表現することに成功しています。これにより、多くのリスナーが自身の内面と重ね合わせ、共感するポイントを見出すことができたのでしょう。

まとめ

ずっと真夜中でいいのに。「秒針を噛む」の歌詞は、「秒針を噛む」という印象的なフレーズを核として、時間に対する焦燥、不安定な感情、自己肯定感の揺らぎなどを多角的に描いています。この独特な比喩表現は、言葉の表面的な意味を超え、コントロールできない時間や状況に対する苛立ち、あるいは自身の内面に潜むどうしようもない感情を鮮烈に象徴しています。

楽曲のサウンドとも相まって、この歌詞は聴き手に強烈な印象を残し、多くの共感を呼びました。「秒針を噛む」という行為は不可能だからこそ、そこに込められた感情の切実さやどうしようもなさが際立ち、リスナーは自身の経験や感情を重ね合わせながら、この楽曲の世界に深く入り込むことができるのではないでしょうか。ずとまよの歌詞は、このように抽象的でありながらも感情の核心を突く言葉選びによって、独特の文学的な深みを生み出していると言えるでしょう。